近鉄特急の大動脈、名阪特急には、ビスタカーやアーバンライナー等、常にフラッグシップたる車両が投入されて来ました。2020年、名阪特急の中でも停車駅が少ない通称「甲特急」に、新たな特急型車両が投入されました。
80000系、深紅のメタリック塗装に金色の帯と、従来の近鉄特急に無かった塗装で登場しました。
列車の愛称は「ひのとり」、近鉄の毎日運転の定期特急列車では初の完全日本語愛称になりますね。側面にも火の鳥を模したロゴが入っています。一応、手塚方にも利用許可をもらってるそうな。
先頭は直線と曲線を組み合わせた流線形で、更にハイデッカーとした「プレミアム車両」となっております。この辺りは50000系「しまかぜ」を元にした構造なんでしょうね。お出掛け需要が厳しい中での出発となりましたが、元々ある名阪間需要に加えてプチ贅沢需要も多少なりとも取り込んでいるようでして、特急用車両として総合的な完成度の高さからブルーリボン賞も受賞しています。さすがです。
行き先表示はフルカラーLED表示機となっています。そうそう、奈良線の花園車庫への入出庫を兼ねて、阪奈特急にも充当されています。乗車時間は短いですが、名阪特急よりもリーズナブルに利用出来るのはポイントですね。運転本数は少ないですが…。
一発目に乗車したのはその奈良発大阪難波行きの阪奈特急、さっそくトップナンバーへの乗車となりました。
それでは参りましょう、まずはデッキからです。注目すべきはこのドアで、これまで折戸やプラグドア等を採用することで頑なに引き戸を使用してこなかった名阪特急にして、何十年ぶりかの引き戸採用となりました。新たなフラッグシップたる車両にして、一体何があって現実的な解となったのか、非常に気になります。
4号車、バリアフリー対応車両のドアです。そこまで大きな変化は無さそうです。
トイレです。手前が男性小用、奥が洋式トイレとなります。男性小用はセンサーによる使用知らせ灯が仕込まれており、突然開けられるのを防いでいます。これは配置が長手方向から前後方向に変わったため、窓が付いてはいるものの急に開けられるとマズいという事情もあるんでしょうね。
向かい側には女性専用トイレが有ります。そうそう、この辺りの化粧板は大理石風となっています。
手前の洗面台です。水、ハンドソープ、温風が自動で出る今時のお金がかかったものが搭載されています…一ヶ所期間限定(であって欲しい)の表示がされていますが・・。鏡には都合半間接照明が仕込まれています。
バリアフリー対応トイレは安定の広さです。開閉はボタン式となっています。
奥には消火器とAEDが有ります。
ドアを挟んで向かい側には男性小用トイレが配置されています。で、最近の車両では当たり前になって来ましたが、防犯カメラがセットされております。
更に通路を挟んで洗面台。特に違いは有りません。横にはおしぼりステッカーが有りますが、例の一言、「一人一本まで」です。
3号車には自動販売機とロッカーが備わります。ロッカーは3/4が交通系ICカードでロックがかけられるものとなっている一方で、自販機は現金のみの対応です。
向かい側には喫煙室が有ります。難波線の各駅、名古屋駅、奈良駅では使用出来ません。
内部を見てみました。窓は大きいです…が、居住性としては22600・16600系等のようなタイプの方がいいんでしょうね。あまり長居するような場所でも無いとは思いますが(笑)
2号車にはフリースペースが設けられています。本来的には長時間乗車中の休憩スペースなんでしょうが…満席時の飛び乗りでの救済席としても機能しそうです。
壁面にはひのとりのロゴがあります。
そしてここにもロッカー。3号車の倍が用意されています。
そうそう、連結面には開いた時に点灯するライトが仕込まれています。躓き防止のためですね。
それではレギュラーシート車の車内です。2+2の4列配置で、全体的にモノトーンな色使いでは有りますが荷棚部分に木目調を入れることで彩りを加えています。なお「ひのとり」はレギュラーシート車でも特急料金に加え「ひのとり車両券」と称する追加料金が必要です。いつもの移動にワンランク上の移動空間を提供するものという点では、アーバンライナーのレギュラーシートとデラックスシートの中間の位置づけですね。
デッキとの仕切りです。仕切り扉は全面ガラス張りの自動扉ですが、スリット模様を入れているため透明性は有りません。化粧板はグレートーンの木目調を採用しています。また仕切り扉の左側には非常ボタンと防犯カメラが設置されています。
案内表示はLCDディスプレイ二面仕立て、分割での表示や一面での表示など色々な表示パターンに対応しています。トイレ使用知らせ灯は、男性小用に関しても表示されるようになっております。
4号車のバリアフリー対応車両の仕切りです。仕切り扉が両開きとなっています。
この区画には荷物置き場が有ります。二段式で、セーフティバーも有りますね。
天井です。間接照明に窓上の補助照明、近鉄特急の押さえどころはしっかり押さえています。その補助照明はまたも間接照明ですが、22600系よりは照度がアップしている気がします。
荷棚はガラス製で荷物の置き忘れを極力防ごうとした意図が見えます。本質を言うと、荷物を忘れる人は上を見ないというのは経験者の弁です。また埃の点で清掃も大変そうで…。各席上にはスポット空調と座席の指定状況を示すランプが付いています。青が空席、緑が発券済で、車掌さんの検札業務の効率化に役立っていることでしょう。
で、初めて見た「オレンジ」。当該座席の様子を見るに、小児料金での指定なんでしょうね。
窓です。近鉄のレギュラーシート車では異例の1席につき1枚配置で、眺望は全席フェアとなっています。日除けはフリーストップタイプのロールカーテンで、定期列車としては初採用となりました。この辺りも、他社の潮流に合わせた感が有ります。
座席です。シートピッチをJR各社のグリーン車並みに広げているのが自慢のひとつですね。それと普通席レベルでは異例のバックシェル付きとなっており、フルリクライニングをしても後列が気になりにくくしています。シートピッチはあくまで「座席中心間同士の距離」なので、座席間ピッチではそのバックシェルで差し引き"おあいこ"と言えますね。
テーブルはシートバック式とインアーム式の二面装備、この辺りは22600系から続くものとなっています。また保護色になってますが折り畳み式のドリンクホルダーも設けられており、収納に関してはかなり色々なパターンを想定して使えるようになっていると思います。リクライニングはお久しぶりのスライド式(だけではなくて座面チルト付き)で、背ズリだけが倒れる座席に慣れているとうまく倒せないので多少のコツが必要です。
ヘッドレストリネンはロゴ入りの専用のものを使っています。そうそう、この系列では50000系「しまかぜ」に引き続き制振装置であるフルアクティブサスペンションを搭載しており、高速域での走行も比較的安定しています。
最前列はオフィスシートとなっており、テーブルの面積が広くなっています。センターアームレストは22000系 リニューアル車で一本になったかと思いきやセパレートタイプが再びカムバック、「またあの愚をやらかすのか」と思ったらそれは早計、スライド式になったためかリクライニングしても位置は変わらなかったのでしっかり考えられてるご様子。一方でサイドアームレストは突然プラスチッキーな安っぽさが際立つお硬いものになっちゃったのが非常に残念、幅もちょっとちゃちいですね。
リクライニングは久々にレバー式に戻っています。その下には各席にコンセントがあるのですが…これ、縦に設置したのはつくづく残念に思っています。折り畳み式プラグタイプや分配式のタイプでは通路側または自室側へはみ出すこととなり、占有面積の減少または最悪通路を歩く人が引っ掛ける可能性があるような気がします。あれですよね、多分に「座席寄せすぎ問題」で横に配置すると窓側が差し込めなくなっちゃうかもしれないからなんでしょうね。
バリアフリー対応の1人掛けです。この席には窓枠に非常ボタンが付いています。なおフットレストは土足禁止面のみ使用可能で、角度の調節が可能なタイプです。土足での利用も出来れば良かったのですが…この辺りは少し残念。そう言えば、反対方向(名古屋・奈良方面)はフットレストそのものが省略されています。
全展開の図。背ズリは両サイドの張り出しがやや強調されており基本的には「包み込まれる様」が当てはまりますが、人によっては「狭い」と感じる方もいるかもしれません。22000系リニューアル車を経て柔らか目になってはいますが、ずぶずぶ沈み込む感じでは無くしっかり受け止めてくれるようなそれです。また背ズリのカーブもより身体に沿うように改良されている気がします。
向かい側は車椅子スペースです。テーブルやスポット空調があるところからして、一応「指定区画」にはなってるんですかね?
続いて両先頭のプレミアム車両へと参りましょう。21000系「アーバンライナー」以来のアッパークラス2両設定となっています。
デッキから、ドアです。見よ、このドア上の広さを(笑) この車両は屋根の高さが拡大されており、デッキ部分の容積は中々のものです。
ドア上には開閉ランプが有ります。22600系等では壁面の間接照明を点滅させて開くドアの位置を示すというおしゃれなライトワークをしていたのですが、この系列ではえらくフツーになっちゃった気がします。
ロッカーです。ここは6つが用意されており、4つが交通系ICカード専用です。
向かい側にはカフェスポットがあり、車内で挽きたてのコーヒーを購入することが出来ます。
…ただ、自販機もそうですがやっぱり現金オンリーなんですよね。ある意味での「市販品」なので、ICカード機能ともなると特注になっちゃうので難しいのでしょうが…。そうそう、お湯は中国の長距離列車のように無料で使うことができ、右側の自販機でパックを買うことで紅茶も頂けます。なお自販機にはSOYJOYも入ってますが…駅ファミでお茶菓子を買う方がいいかと…。
窓際にはカップと紙幣の両替機。両替機はまぁ…「やれるだけのことやった感」ですね。
プレミアム車両は昨今のバリアフリー化一辺倒に待ったをかけるハイデッキ構造、4段の階段を上がってアプローチします。この辺りは50000系「しまかぜ」にも通じる構造ですね。
客室側より一枚。奥にはレギュラーシート車同様トイレと洗面台が配置されます。
プレミアム車両の車内です。50000系「しまかぜ」に引き続き設定された座席種別ですが、コンセプトは全く異なるものとなり落ち着きを重視したインテリアとなっています。
デッキとの仕切りです。木目調の化粧板は濃い茶色となっており雰囲気を変えています。
中央付近にはロゴが入っています。これはプレミアムシート車だけのものですね。
最前面です。ガラス面積を大きく取った仕切りとなっており、最前列からは前面展望を楽しむことが出来ます。故に最前列は中々予約が取りにくいですね。そうそう、「しまかぜ」とは異なり非貫通構造のため、前面の視界はよりクリアになっています。また在来線の線路を走る車両としては珍しく、運転台はほぼ中央にセットされていますね。B席は言わば「艦長席」、しかしながらメガ粒子砲は当列車には搭載されていません。
LCDディスプレイはレギュラーシート車同様の二面装備です。時折前面展望の映像が流れますが、雨の日はちょっと残念な映像になりますね(笑)
また通勤電車ばりに駅の階段等の案内も流せます。列車のイラストがリアル(笑)
天井です。この場面を持ってくるかな感は有りますが、終着駅到着前は照明が青に変わります。視線を天井に向けることで、荷物の置き忘れを無くそうというものですね。まぁここまですれば、初めてだと上向きますよね(笑)
窓上にはレギュラーシート車同様に予約ランプが有ります。
3列の内1列席はA席となります。
座席からですが窓です。日除けはスイッチ式で自動化されており、逆に手動では動かしにくいかと思います。
空調のつまみはレギュラーシート車とは異なり窓の柱部分に付いています。
座席です。50000系ではJRで言えばグリーン車相当を意識した感のある座席でしたが、この車両ではグランクラス相当を意識したものと見え、革張りの座席本体やバックシェルなど、シルエットはそっくりと言えばそっくりです。ただ横幅に制限があったのか、センターアームレストの幅はおおよそ新幹線グリーン車と同程度と言った感じですね。テーブル等についてはレギュラーシート車以上に多彩なシーンに対応しており、インアームテーブルは片面・両面どちらでも使用可、センターアームレストにはカクテルテーブルがあり、それをスライドさせるとドリンクホルダーが出てきます。あまりにも多機能でどう展開して撮ろうか迷った次第です(^^;;
向かい側の1人掛けです。グランクラスの座席と比べて縫い込みの幅は広く取られており、包容感は比較して抑え目ですが気になる程のものでもありません。そうそう、座席の回転は一般的なペダル式で、キックしてやるとリクライニングやレッグレストがワンタッチで戻るようになっています。
リクライニング及びテーブル展開の図。50000系に引き続きクッション性の絶妙さは中々と言えます。ただ残念な点が二つ。まずはフットレスト、レッグレスト先端に足掛けを意識したものが付いてますが、土足での利用を想定しており靴を脱いだ状態ではプラスチックの硬さがダイレクトに伝わります。二つ目はアームレスト、21020系でも指摘しましたがアームレストを水平に設計してしまうと、リクライニング時に肘が開く格好を強いられます。スライド式のリクライニングということもあって「フルリクライニング時にアームレストを使うもんじゃない」という思想であればただの壁、恵まれた横幅もややスポイルされ窮屈さを感じてしまいます。この辺りは結局どちらを取るか…なので設計も難しいと思いますが、使い方に制限が出るという点で敢えて取り上げておこうかと。
リクライニングは電動式、操作は手元のパネルで行います。上がリクライニング・レッグレストの上下をセットにしたもの、下が個別調節とシートヒーターの操作となります。50000系に搭載していた例の機能は省略、あんまり使われてなかったんですかね。それにしても、私が乗車した段階でさっそく接触不良なのかボタンを押しても動かない席が有りまして…。整備陣の頑張りという"時"が、その内解決してくれることを祈ります。
読書灯は座席に搭載されています。リーフレットには「角度調節が可能」と書いてありましたが…力ずくで動かそうにも全然動きませんでした。私の動かし方が悪いのか、リーフレットの誤記なのか、組み付けが悪いのか…。
で、リーフレットを見ていて気付いたこの機能。ヘッドレストピロウは高さ調節の他にウイングアップが可能で、画像では拘束具のような状態ですが(^^;; 、片側を上げて頭を預けられるという点は秀逸です。この機構のせいかグランクラス比でややクッション薄めですが、そこまで気にする程では無いでしょう。
各席には座席の案内を記載したリーフレットが有ります。2人掛け席は前列の中央、1人掛け席は窓下、デッキ仕切り際の座席は壁に付いています。なお、全車でフリーWi-Fiが利用可能で、大阪線の山間部を除いておおむね繋がる印象です。
今回、運良く最前列を確保することが出来ました。近鉄名古屋から大阪難波までの間、車内で購入したコーヒーを飲みながら前面展望して優勝した素晴らしい一時でした。なお最後列も中々人気で、わざわざ座席を後ろ向きに回転して後面展望を楽しむ層もいるそうな。仕切り窓下に固定テーブルもあるので、コーヒーなど小さいものなら置くことが出来ます。
駅にはひのとりデビューを宣伝するポスターが貼られています。
駅の広告枠もこの通り。「くつろぎのアップグレード」、所々小さい難な点を残しつつなのが近鉄らしいですが、お値段相応と言えばその通りなので追加料金としては悪くないと思います。いいじゃないですか、プレミアムシートに座って遠くグランクラスに思いを馳せてみるのもさ‥。
運行区間を見ると…阪奈特急は記載無し、あくまで回送ついでの営業でしか無いということですね。直通先の阪神の路線の方が目立っちゃってます(笑)