大井川鐵道の千頭駅、今では休日ともなるとトーマス目当てに来る大勢の家族連れで賑わいます。右側のジェームズ、トーマスは実際に動くSLでございます。
ジェームズ化したのはC56 44号機、JR西日本の160号機が本線から引退してからは唯一の稼働機となっています。それよりも今でこそこのような姿ではありますが、この機関車はかつて第二次世界大戦時にはタイに出征して生還したSLの1両で、稼働機としては唯一の生還機となります。
C56だけでは長編成の牽引が出来ないため、補機として電気機関車が連結されます。
E10形、大井川本線では唯一の生え抜き車両ですね。
さてSLもELも魅力ですが見逃せないのが客車。充当されていたのは、戦前から戦後にかけて製造された客車の決定版であるオハ35系でございます。
その中でも車端部の天井に絞りがある戦前製のグループをご紹介します。塗装は国鉄時代と同様ぶどう色を維持しております。
SL急行に利用されており、この時は上のようにジェームズ号に充当されておりました。サボ受けには「特急」が入っておりますが…ええ、"特に急がない"ですよね(笑) 下りに関しては下泉を通過するため「急行」よりは停車駅が少ないですが…。
それではデッキから参りましょう、ドアです。このご時世にして自動でも無ければ押しボタンもなく引き戸でもないシンプルな手動開き戸です。窓は2枚、戦前は強度に問題があったのでしょう。
上を見ますと、折り妻の妻面や絞りが付けられた天井など、かなり立体的に作られています。
側面には降りる際の注意書きが書かれています。焦ってはいけません。
トイレです。ここは木が多用されており、「便所」のプレートが付けられています。もちろん中は和式です。
「便所使用知らせ灯」とプレートが付けられています。ダイヤモンドカット処理されているのがまたさりげないデザイン性が光ります。
車内です。木が多用された車内は、最近の「木目調」やら「フローリング」やらの観光列車では出せない長老の味が出ています。良くも悪くも、こちら側の人間から見るとトーマスの装飾が霞んで見えてしまいます(^^;;
デッキとの仕切りです。仕切り扉は車内販売の通過を考慮してか開きっぱなしでセットされています。ここも化粧板が木になっています。
広告枠には…ジェームズがいますね(笑)
天井です。トーマスのフラッグが吊り下げられているのはここではとりあえず置いといて…。もちろん非冷房、美しい天井のカーブもそのまま残されています。照明は円型の蛍光灯が1列等間隔で並びます。かつては白熱灯だったのでしょうか。始発駅停車中は車軸発電機が動いていないため消灯しております。昭和中期以降に製造された客車では発電機を搭載するようになっただけに、ここも時代を感じます。
涼を生み出すのはこの扇風機。登場当初は無かったようですので、後の設置ですね。JNRマークもしっかり残っています。
荷棚は網棚、しかも金網ではなく布製です。また荷棚の支えや帽子掛けについて、シンプルながらカーブを描いた優美なデザインで作られています。作ろうと思えばもっとシンプルに出来たとは思うのですが、この辺りが当時の国鉄のちょっとした美徳なんでしょうね。
窓です。取材時は真夏ということもあり、全ての窓を開けてセットしていました。他のSL列車では(大半が冷房を備えた車両ということもありますが)「煙が入るから開けてくれるな」と言いたいように閉めてセットしている中、「煙と音を楽しめ」と言わんばかりの寛大さを見せています。
柱には扇風機のスイッチが設置されています。日除けは爪を引っ掛けるロールカーテンですが、経年もあるのか生地がくたびれており、少し引き出しにくくなっておりました。
座席です。全席ボックスシート、脚台や肘掛けのアイスグリーンや背ズリの木製フレームなど、当時は当たり前に作っていたであろうデザインでも今では美しさを感じてしまいます。見る目に少なからずフィルターがかかってはいますが(^^;;
直角の背ズリに決して広くないシートピッチ、満席で大人が座ると窮屈以外の何者でもありません。それでも、かつてはこの座席で疎開、出征、引き揚げ等による長距離移動に黙々と従事していたことを考えると、生きる歴史の教科書としてこの車両の存在意義が見いだせると思うのです。
デッキ仕切り際についてはこの時期から横幅が少し狭くなっています。
窓側には灰皿がありますが、もちろん今は全車禁煙です。
なお席により灰皿の形状が異なっており、こちらは灰落とし(…と言えば通じるでしょうか)の形状が上のものと違っています。
で、こちらは国鉄型車両でよく見られたタイプに交換された座席です。蓋が付いており、灰が飛ばないようになっています。これは後にどこかのタイミングで交換されたんでしょうね。
最後にテーブルが追加された車両もいます。今回見た編成では1両だけ確認することが出来ました。
続いては中間に連結されていたこのオハ35-459へと参りましょうか。この車両は戦後に更新工事を受けており、他の戦前製車両とはインテリアが異なっています。
まずはデッキ、ドアから。手動の開き戸は変わりませんが、窓が一枚となりスッキリしましたね。
トイレも残されてはいるのですが、使用禁止となっています。この辺りは化粧板が白に塗装されていますね。
洗面台も残されています。
この時から水と湯の両方のボタンが備わっています。お湯は冬季の蒸気暖房発動時に使用出来るそうな。
少し短めですが車内です。窓枠がアルミサッシ化され、化粧板を白に塗装して明るい雰囲気としています。そうそう、蛍光灯も丸型ではなく一般的な直線タイプを利用していますね。
座席を見ていくと、各フレームが白に塗装され灰皿も戦後広く見られた蓋付きのものに変わっています。テーブルは引き続き存在しないのと、モケットやクッション等は変わりませんが…。